「主演に選ばれなかったくらいで、大好きだった演劇を辞めるわけがないんだよ」
はっきりと、あかりはそう言い放った。
あの、いつも穏やかなあかりの雰囲気からは、想像できないような力強い声だった。
「ねえ、そうでしょ、恵麻ちゃん?」
「…………」
その質問を、私はすぐに否定することが出来なかった。
「やっぱり、そうだったんだね」
私の反応を見たあかりは、どこか悲しい表情を浮かべながら、そう呟く。
そして、続けて彼女は、私にこんなことを告げた。
「恵麻ちゃん、あかりはね、いつか恵麻ちゃんから本当のことを話してくれるんじゃないかと思って、ずっと待ってたんだ。だけど、それじゃあ駄目だったんだよね」
そして、あかりはゆっくりと近づいてきて、私の手を握る。
「お願い、恵麻ちゃん。本当のことを、あかりにも教えてくれないかな?」
「あかり……」
誰よりも優しい声で、あかりは私にそう言った。
織矢くんも、心配そうな眼差しで私を見つめてくる。
こうなってしまったら、私はもう、自分の感情をコントロールできない。
ずっとずっと、胸の内にしまっていたものが、溢れ出してくる。
「……あのさ、あかり」
そして、私は今までで一番弱々しい声で、彼女に言った。
「私はね……本当に最低な人間になっちゃったんだ」
ガタガタと、自分の身体が震えそうになるのを必死で抑えようとするけど、言うことをきいてくれない。
本当に情けなくて、目頭が焼けるように熱くなっていった。
「大丈夫」
しかし、そんな私の手を、あかりは優しく包み込んでくれる。
「大丈夫だよ、恵麻ちゃん」
そう何度も励ましてくれたおかげで、私はなんとか冷静さを取り戻すことができた。
そんな私の姿を見たからだろう。織矢くんが慌てた様子で私のところまでパイプ椅子を持って来てくれた。
私は、そんな織矢くんの厚意に甘えて、パイプ椅子に座らせて貰い、話を続ける。