「ごめんね、恵麻(えま)ちゃん。それに織矢(おりや)くんも、さっきまで2人が話していた内容は、あかりも全部聞いてたんだ」

 そう言いながら、あかりは演劇部の部室の中へと這入って来る。

「わー、散らかってるねー。ダメだよ、織矢くん。お片付けは普段からちゃんとしてなきゃー」

 そして、周りの様子を一瞥しながら、そんな子供を叱るような感想を述べた。

 私は、織矢くんのほうへと視線を向けるが、彼も状況がいまいち理解できていないようで、首を横に振るだけだった。

「恵麻ちゃん、あかりがここに来ることは、織矢くんも知らないよ」

 そして、私の思考を先読みするかのように、こんなことを私に告げる。

「私がここに来たのはね、恵麻ちゃんに本当のことを話して欲しかったからなんだ」

 あかりは、私の顔をじっと見つめて、問いかける。

 自分の額からは、暑くもないのに汗がにじみ出す。

「本当のことって……」

 私は、なんとか誤魔化そうとして言葉を紡ごうとするが上手くいかない。

 一方、あかりはそんな私に容赦することなく、話を続ける。

「だから、恵麻ちゃんが演劇を辞めた理由だよ。あかりは、それが知りたくてここに来たんだから」

 彼女の顔には、いつものにこやかな笑みが浮かび上がっている。

 だけど、今の私には、その笑顔が直視できない。

「そうだ、織矢くん。先に言っておくとね、あかりが織矢くんに協力したのは、自分の為なの。ずっとずっと知りたかったことを、恵麻ちゃんから聞けるチャンスだと思ったから」

 だが、あかりは私が話し出すよりも前に、織矢くんへ話を振る。

「知りたかったことって……灰谷さんが演劇を辞めた理由だよね? それならさっき、灰谷さんが……」

「織矢くん。言ったでしょ? あかりはずっと君たちの話を聞いてたんだよ? それに、恵麻ちゃんがシンデレラに選ばれなかったことだって、ずっと昔に聞いてたし」

「え? だったら……」

 あかりが言っていることが分からず首を傾げる織矢くんだったけれど、私は違った。

 多分、あかりはずっと気付いていたのだ。

 私が、嘘を吐き続けていたことに。

「あのね、織矢くん。私の知っている恵麻ちゃんは……」

 そして、それを証明するかのように、彼女は告げる。