自分のことなのに、本当に情けない話だと思う。

 だけど、これが私が夢を諦めた全容だ。

「これで分かったでしょ? 私がシンデレラを演じることが出来たのも、舞に何かあったときの為の代役として練習をしてたから」

 皮肉なことに、『シンデレラ』の公演でも、私は舞の代役として選ばれた。

 私は、いつも舞の代替品で、私自身が何か功績を残したことなんてない。

「そんな私が、たとえ文化祭の演劇だとしても、シンデレラを演じることなんて許されないの」

 これで、私が話したいことは全部話すことが出来た。

「ごめんね、織矢くん。私は、織矢くんの力にはなれないよ」

 彼にとっては、最後の演劇部としての活動だというのなら、私は尚更、そんな大事な公演の舞台に立つことはできない。

「灰谷さん……」

 そして、織矢くんも私の心境を悟ってくれたのか、それ以上は何も言うことはなかった。

「……じゃあ、私はもう帰るね」

 これでもう、用事は済ませた。

 明日からは、織矢くんから追いかけまわされることもないだろう。

 何も変わらない、私の静かな生活に戻るだけだ。

「……織矢くん」

 だけど、最後に私は、どうしても彼に伝えたいことがあった。


「織矢くんが私のシンデレラを褒めてくれて……嬉しかったよ」


 それは、嘘偽りない私の本音だった。

 これくらいは、素直になってもいいだろう。

 だけど、私は織矢くんからの反応を確認する前に、演劇部の部室を出て行こうとした。


「まだだよ、恵麻ちゃん」


 だけど、私が手を掛ける前に、扉が勝手に開く。

 そして、そこにいたのは――。


「恵麻ちゃん。まだ話していないこと、あるよね?」


 先ほど、下駄箱の前で別れたはずのあかりが立っていたのだった。