「織矢くんなら知ってると思うけど、劇団『星宙』の『シンデレラ』は若手団員の花形として公演される演目だから、その主役に選ばれた舞は、実質これからの劇団『星宙』を担う存在だって認められたってことなの」
「だけど……」
何かを言おうとした織矢くんだったけれど、それよりも先に、私は彼が言いたかったであろう事柄を口にする。
「うん。勿論、『シンデレラ』の公演が全てじゃないよ。過去にも『シンデレラ』に選ばれなかった女優さんでも、『星宙』で活躍している人はいっぱいいるから」
実際、私がシンデレラに選ばれなかったときに、先輩の劇団員の人たちからは、励ましの言葉を沢山貰った。
「でも、私にとってはシンデレラを演じることが、全ての始まりで、私の目標だった……」
そして、劇団『星宙』では、シンデレラを演じることが出来るのは、15歳の少女までという決まりがある。
だから、その年で16歳になってしまう私は、もうシンデレラを演じることは出来ない。
私の夢は、容赦なくそこで潰えてしまったのだった。
「……じゃあ、灰谷さんが『星宙』を辞めた理由って、もうシンデレラを演じることが出来なくなったからなの?」
「……そうだよ。だから、もう私が演劇を続ける理由もないかなって……」
私は、織矢くんから視線を外して、そうぼやく。
「ね? よくある話だったでしょ? ずっと追いかけていた夢があって、それが叶わないと分かったら、今までの努力を全部捨てて逃げ出しちゃうような、中途半端な人間だったんだよ、私は」