「私って、見て分かるかもしれないけど、別に特別な子じゃないでしょ? 両親がお金持ちだとか、有名な女優の娘とかでもない、普通の女の子だった」
そんな女の子が、劇団『星宙』に、育成枠とはいえ入団できたことには、当時は私自身が驚いていたと思う。
それと同時に、自分がこれから上手くやっていけるのかという不安もあったと思う。
もし、周りと生まれた環境が違うという理由で、いじめられたりしたらどうしよう……。
そんな不安がなかったといえば嘘になるし、子供なりに大人の世界というものを怖がっていたのかもしれない。
だけど、現実は全然違っていた。
劇団『星宙』は、徹底した実力主義の世界だった。
誰がどんな家庭で育ってきたのかなんて、舞台の上に立てば誰も気にも留めない。
私が踏み出した世界では、年齢も性別も、大人も子供も関係ない。
誰もが一人の役者として、観客を魅了する為に存在する。
私の憧れた世界はそんな、平等で残酷な世界だった。
「私と一緒に入団した女の子がいたって言ったのは覚えてる? その子は、私なんかよりずっと昔から『星宙』に入ることを夢見ていた女の子で、お母さんも『星宙』で舞台女優をしていたんだ」
初めてその子をみたときは、月並みだけど、お人形さんみたいだと思った。
それほど、彼女の綺麗さは洗練されていて、何より、多くの人を惹きつける魅力があった。
「お母さんが同じ『星宙』の舞台女優……。それって、もしかして、白雪……白雪舞のこと?」
「……やっぱり有名人だね、舞は」
どうやら、織矢くんも私の同期である舞のことは知っているみたいだ。
というより、『星宙』を好きと公言しているくらいなら、知っていて当然の舞台女優だ。
「……確かに、彼女は僕たちと同じ現役高校生の舞台女優だけど、まさか、灰谷さんと同期で入団していたなんて」
そして、素直に関心を浮かべている織矢くん。
「そんな白雪舞と一緒の試験に受かったなんて、やっぱり灰谷さんって、凄い人なんだ……!」
「…………」
なんだか、彼の関心が私の思っていたのとは違う方向に進んでしまっているような気がする。
「……話、続けるよ」
私は、わざとらしく咳払いをしたのち、再び口を開く。