「……どうして」
今度は、織矢くんのほうから、質問をぶつけられる。
「どうして、『星宙』を辞めちゃったの?」
その言葉が私の耳に入った瞬間、ここから立ち去ろうとした足が、動かなくなる。
「ごめん……。多分、灰谷さんにとっては話したくないことだと思う。だけど僕、知りたいんだ……」
私は、もう一度振り返って、彼の顔を見る。
少しクセっ毛で、猫背気味の姿勢は、どこか怯えているような印象を受ける。
それでも、眼鏡越しから覗く瞳からは、強い意思のようなものがこもっていて、先ほどの質問が決して好奇心によるものではないことは伝わってきた。
「……別に、聞いても退屈な話だよ。それでも聞きたい?」
私がそう告げると、織矢くんは少し顔を上げて、真剣な表情で頷いた。
ここまで来たのなら、いっそ全部吐いてしまったほうが楽なような気がして、私は口を開く。
実際、こんな話は、どこにでもありふれた話だ。