「どうりで歌声も踊りも完璧だったわけだよ! なんたって、あの『星宙』に所属してる演者さんなんだから!」

 仮入団とはいえ、私が『星宙』に所属していたことを知って、織矢くんはますます私に興味を示しているようだった。

「ああ……僕はなんて恐れ多い事をしちゃったんだろう……! プロの人に文化祭の公演に出て欲しいって頼むなんて……」

 すると、今度は己の失態を恥じるように、頭を抱え込んでしまう。

「ごめんッ! 灰谷さんッ!! 僕、灰谷さんがそんな凄い人だとは知らなくて……。素人から、いきなり自分の劇に出てくれなんて言われたら迷惑だよね……」

 しゅん、と肩を落として項垂れる織矢くん。

 どうやら、私が彼の出演依頼を断っているのは、プロ意識によるものだと勘違いしているようだ。

「違うよ、織矢くん……」

 だから、私は彼の勘違いを訂正する。

「言ったでしょ。私は、もう演劇を辞めたって」

「…………あっ」

 そこで、織矢くんはやっと肝心なことを思い出したらしい。

 私が演劇を辞めたという事実。

 それが、どういう意味を含めているのかも、織矢くんは気付いたようだ。

 それでも、私ははっきりと、彼に告げた。

「私、もう『星宙』を辞めたの」

 目の前の彼が、息を呑むのが分かった。

 だけど、私は駄目押しのように、彼に向かった言った。

「だから、私はもう、演劇はしないって決めたの。私の夢は……もう終わったから」

「夢……」

 織矢くんは、私が発した『夢』という言葉を、噛みしめるように呟く。

 それが何を指していることなのか、織矢くんには分からないだろう。

 だけど、それを丁寧に説明してあげるほど、私にも余裕がない。

 第一、もう話したくもないことだ。

「……もう、これくらいでいいかな? 悪いけど、どうしても『シンデレラ』をやりたいんだったら、他をあたって」

 これだけ話せば、織矢くんだって諦めてくれるだろう。

 そう思って、彼に背中を向けたときだった。