私の場合は、織矢くんとは違って、学校行事の一環という訳じゃなく両親たちと一緒に観に行った。

 確か、お父さんの会社でチケットを譲ってもらったとかで、演目が『シンデレラ』ならば私も退屈しないだろうと思って連れて行ってくれたのだろう。

 当然、そのときの私は演劇に興味なんてなかったけれど、『シンデレラ』のお話は絵本やアニメ映画などで何度も観てきたので、それなりに楽しみにはしていた。

 そして、広い会場とフカフカの座席に興奮しながら、照明が暗転して、幕がゆっくりと上がった瞬間だった。


 私は、演劇という舞台の世界に吸い込まれた。


 絵本とも、映画とも違う世界が、目の前に広がっていく。

 舞台を照らすスポットライトも、背景になっている数々のセットも、私には全てが新鮮に映っていた。

 たった数十メートルしか離れていないはずなのに、舞台で起こっている出来事が、まるで別世界のように、輝いてみえる。

 何より、私の目に焼き付いたのは、ボロボロの服を着ていたはずのシンデレラが魔女に魔法をかけられて、綺麗なドレス姿へと変身するシーンだった。

 一瞬だけ、舞台へ向けられたライトが消えたかと思うと、次の瞬間には、キラキラと、白いドレスに身を包んだシンデレラが立っていた。

 今から考えれば、ただの早着替えを応用した演出だ。

 だけど、幼い私は、この世には本当に魔法があるのだと、そのときは本気で信じてしまったのだ。

 そして、そんな夢の時間を終えた私は、両親に手を繋がれながら会場を去っていく際に、はっきりと言ったのだ。


 ――私、シンデレラになりたい。


 このとき、私もきっと、魔法にかけられてしまったのだ。

 ただの女の子だって、諦めずに頑張っていれば、きっと夢が叶えられるという、残酷な魔法に。