きっと、この3年間で、色々なことがあったのだろう。
私には想像くらいしか出来ないけれど、織矢くんにとっては、それはかけがえのない時間だったはずだ。
正直、そんな風に思えることが羨ましい。
私には、そんな思い出は、もう存在しない。
「だけどね、灰谷さん……」
しかし、そんな感傷に浸っている間に、織矢くんは私にとんでもないことを言った。
「僕は、君の演じるシンデレラが、一番綺麗だと思ったんだ」
そう、告げられた瞬間。
私はまた、呼吸の仕方を忘れそうになる。
「だから、もっと沢山の人に観て欲しいと思って……」
「……なん、で」
私は、掠れた声のまま、彼を問い詰める。
「……なんで、そんなことを言うの?」
まるで、子供が駄々をこねるような言い方に、織矢くんは特に疑問を抱かず、私の質問に答えた。
「なんで、って言われても……ごめん……正直、上手く言葉で伝えることはできないんだけど……」
そう前置きして、織矢くんは私に言った。
「なんだかこう……舞台の上に立っている灰谷さんを見たら、もっとその姿が観たくなって……どうしても、最後の公演は灰谷さんに出て欲しいって、そう思ったんだ」
いつのまにか、彼はいつものような猫背気味の姿勢に戻っていて、オドオドとした様子でズレた眼鏡を掛け直している。
「その……灰谷さんが嫌がってることも重々承知だったけど、それでも……僕の我が儘でもいいから、もう一度、灰谷さんの『シンデレラ』が観たかったんだ……」
最後は申し訳なさそうに、そう締めくくった織矢くん。