演劇部の部室は、西棟の4階の一番端に存在していた。
西棟は主に文化系の部活動が使用している校舎で、丁度練習が始まったのか、吹奏楽部が奏でる綺麗な音色が聴こえてくる。
そんな中、私は覚悟を決めて、演劇部の部室の扉をノックする。
「灰谷さんっ!?」
「きゃあ!!」
すると、いきなり扉が開かれたので、思わず声を上げてしまった。
「ご、ごめん! つい、興奮しちゃって! 驚かせちゃったよね……」
「いや……別に、そんなことないけど……」
素直に頷くのも恥ずかしかったので、私は冷静さを取り繕いながら返事をする。
「そっか……良かった」
しかし、私の強がりが功を奏したのか、織矢くんは安心したように笑みを浮かべる。
そして、何かを思い出したかのように身体をずらして扉の前から退く。
「あっ、どうぞ! 狭い部室だけど歓迎するよ!」
まるでフロントマンのように、私を案内する織矢くん。
そんな彼の指示に従って、ひとまず私は演劇部の部室にお邪魔することにした。
「ごめんね……ちょっと汚いけど……」
その言葉は、決して謙遜などではなく、部室内はかなり荒れてしまっていた。
床と机の上には、これでもかと言わんばかりにテープなどの小道具が散らばっていたし、大きい物だとペイントが剥げてしまっている舞台セットなどもある。
「丁度、大掃除を始めていたところだったんだ」
「大掃除?」
今はまだ、暦の上では10月中旬だ。
大掃除をする季節には、まだ幾分か余裕があるはずだ。
しかし、首を傾げている私に向かって、織矢くんは乾いた笑い声を上げながら言った。