「話だけでも、ちゃんと聞いてあげなよ」

 いつものあかりからは想像できないような、緊張感のある声色。

 こうなってしまったあかりを納得させる為には、もう私が折れるしかないことを、長い付き合いの中で学んでいる。

「…………もう、わかったよ。行けばいいんでしょ、行けば」

 ため息と共にそう言った私を、あかりは再びほんわかとした笑みに戻って、私の頭を撫でる。

「うん、恵麻ちゃん、いい子、いい子~」

 まるで子供扱いしてくるあかりに辟易しながらも、私はせっかく出した靴をもう一度下駄箱に戻して、校舎内へと踵を返す。

 さて、部室棟はどっちに行けばいいんだっけ?

「恵麻ちゃん~、頑張って来てね~」

 そんなあかりからの謎の声援を受けて、私は織矢くんが待っている演劇部の部室へと向かうのだった。