『今日の放課後、演劇部の部室で待ってます。 織矢(おりや)文彦(ふみひこ)

 ……やはり、私の悪い予感は当たってしまった。

「ふむふむ、今日の放課後、演劇部の部室で待ってます、かぁー」

 そして、横から同じようにメモの内容を見たあかりが、律儀に口に出して読み上げる。

 成程、彼も一辺倒で攻めてくるわけじゃないらしい。

 押して駄目なら引いてみろ、なんて言葉があるけれど、そんなことで釣られる私ではない。

 私は、そのメモを乱暴にポケットにしまうと、そのまま上履きを履き替えようとする。

「恵麻ちゃん、行ってあげないのー?」

 そんな疑問をぶつけてくるあかりに、私は当然のように告げる。

「行かない。だって、私には関係ないから」

 いい加減、織矢くんには私のことを諦めて欲しい。

 ならば、この状況を逆に利用することにした。

 ここで私が織矢くんからの呼び出しを無視してしまえば、彼も少しは諦めようと思うかもしれない。

 もしかしたら、また別の策を練って勧誘を続けるかもしれないけれど、そのときはまた、断ってしまえばいいだけの話だ。

 とにかく、今は呼び出しなんか無視して、帰ってしまうのが最善の選択だと私は判断した。

「そっかー。可哀想だなー、織矢くんー」

 しかし、あかりは私の行動に納得していないのか、残念そうな声で呟く。

「織矢くん、このままだと、恵麻ちゃんのこと、ずっと待ってると思うよ」

「……だから、関係ないって」

「あーあー。恵麻ちゃんが来てくれないから、下校時刻になっても帰らないかもー。学校でお泊りしちゃうかもー」

「いや、さすがに織矢くんもそこまで馬鹿じゃないと思うんだけど……」


「恵麻ちゃん」


 すると、今まではのほほんとした雰囲気だったあかりが、真剣な表情でじっと私のことを見ながら、告げる。