見られて、しまった。

 さっきのことを、織矢くんが誰かに言いふらすかもしれない。

 想像するだけで、視界が真っ暗になってしまいそうだった。

 だけど、戻って織矢くんとちゃんと話す勇気もない。

 そんな私が選んだ行動は、何事もなかったように、制服に着替えていつも通り過ごすことだった。


 大丈夫。

 織矢くんには、ちゃんと釘を刺したはずだし、私も早く忘れてしまえばいいだけだ。


 そう自分に言い聞かせて、長い長い昼休みを過ごすことになった。

 そして、予鈴が鳴る寸前に教室に戻ってきた織矢くんだったが、一瞬だけ目が合っただけで、そのときは自分の席に戻り、次の授業の準備の為に、机から教科書を取り出していた。

 良かった。ちゃんと、織矢くんは約束を守ってくれたんだ。

 そう胸をなで下ろして、私も授業の準備をした。

 だけど、その認識が甘かったことに、すぐに気付かされることになる。


 その日から、織矢くんはクラスのHRが終わると、一目散に私のところにやって来て、同じ誘いを繰り返すようになった。


「灰谷さん! 今年の文化祭で、僕と一緒に『シンデレラ』の舞台に出て欲しいんだ!」


 これが、私が織矢くんから追いかけられている理由だ。