「灰谷さん! 演劇やったことあるの!? 今の踊りって劇団『星宙』で公演している『シンデレラ』の舞踏会のシーンだよね! 僕、何度も劇場に行って観に行ったからすぐに分かったよ!」
興奮した様子でまくしたてる織矢くんは、いつも教室で真面目に授業を受けている彼からは想像できないものだった。
「灰谷さんも『星宙』が好きだったんだね! もしかして、灰谷さんも劇場に観に行ったことがあるの!? 僕はね、最初に観たのは学校の行事だったんだけど……」
このままでは、永遠と喋ってきそうな勢いの織矢くんに、私はなんとか声を振り絞って告げる。
「わ、私! 何も知らないから!!」
言い訳としては、文脈も意味も全く繋がっていなかったけれど、私はそのまま逃げるように舞台から降りて体育館から出て行った。
「今日見たことは、全部忘れて!!」
「えっ!? ま、待って! 灰谷さん!」
そして、私を追いかけてくる織矢くんの気配を後ろから感じていたのだが……。
「織矢ー。もう荷物は運び終わったのか?」
「先生! い、いえ! まだなんですけど……」
どうやら、丁度先生に呼び止められて、私を追いかけられなくなってしまったようだ。
「…………はぁはぁ」
中庭を抜けて、本校舎まで戻ってきた私は、必死で呼吸を整えようとする。
だけど、心臓は未だに早鐘のようになり続ける。