「ふーん、そっかー」

 そんな私の嘘に、あかりは気が付いていないようだった。

「でも、あかりは観たいけどなー、恵麻ちゃんがシンデレラになってるところ」

 あかりは、残り少なくなったフライドポテトを名残惜しそうに見つめながら、そんなことを呟く。

 私は、どんな返事をするのが正解なのか迷っていると、またあかりから、唐突にこんなことを言われてしまった。


「やっぱり、恵麻ちゃんは、もう演劇はやりたくないの?」


 その問いかけだけは、いつものような間延びした声ではなかった。

 私は、彼女からは見えない机の下で、キュッと自分のスカートを握る。

 そして、数秒間の沈黙のあとに、私はあかりに言った。

「うん。演劇なんて、もう二度とやらないよ」

 ……たったそれだけの返事をしただけなのに、胸の中が焼けたように熱くなって、喉の水分も全部なくなってしまったのように、カラカラになってしまう。

 ちゃんと笑顔を作っているはずなのに、今の私は、笑えている自信がない。

「ねえ、あかり。もうこの話は止めよう。そんなことより私、なんだか喉が渇いたからジュース買ってくるね」

 私は、無理やり話を終わらせて、逃げるようにあかりから離れていってしまう。

 本当に、逃げるのだけは得意になってしまった自分が、また嫌いになってしまいそうだった。