「そんな大事な公演に、織矢くんは恵麻ちゃんを誘ってくれてるんだよー。ちゃんと話を聞いてあげるくらいは、バチが当たらないとあかりは思うけどなー」
多分、あかり以外の人に言われたのならば、多少は私も眉をひそめたかもしれない。
だけど、どうしてか彼女の透き通るような瞳で覗かれてしまうと、こちらも怒る気がなくなってしまうのだ。
「それに、恵麻ちゃんは知ってる? 織矢くんが引退しちゃったら、乙宜野高校の演劇部はなくなっちゃうって話」
「……えっ?」
「あー、その反応だと、知らなかったんだねー。そもそも、今の演劇部には織矢くんしかいないから、仕方ないんだけどさー」
あかりからの情報は、彼女の予想通り、私にとっては初耳だった。
「織矢くんも、恵麻を誘うときに、どうして話さなかったんだろうー? あまり、同情で引き受けられても、フェアじゃないって思ったのかなー?」
「……知らないよ、そんなこと」
あかりには、ついそう言ってしまったけれど、今までの彼の行動を考えると、それもあながち的外れじゃないような気がした。
「ところでー、なんで織矢くんは恵麻ちゃんに『シンデレラ』をやってほしいって思ってるか、恵麻ちゃんは教えて貰ったの?」
「……ううん、何も言われてない。2学期になって……文化祭の話題がクラスでも上がってきた頃に、急に追いかけられるようになった」
これは、嘘だった。
多分、織矢くんが私を演劇に誘ったのは、【あの日の出来事】があったからだ。
だけど、私はあかりに、そのことを教えるつもりはない。