その夜、明日からの文化祭で興奮してよく眠れなかった。ベッドに入って目を閉じても、結局眠れずにまた目が覚める。手を伸ばしてスマホの画面を見ると午前1時を回っていた。こんなことを繰り返すうちにいつの間にか朝を迎えた経験が何度かある。明日シフトあるのになぁと考えるとげんなりした。
明るいスマホの画面を閉じて再び布団に潜り込もうとしたのだが、突如としてスマホが震え出した。私は慌てて画面をもう一度見る。着信だった。こんな時間に? けれど「井元穂花」という表示を見てあっと声を上げた。
「……もしもし?」
『ごめん、こんな遅くに』
どうせ眠れないのだから大丈夫だとはあえて言わずに、彼女の報告を待つことにした。
「今まで神林と一緒にいたの?」
頭の中で想像した二人だけの時間を思い浮かべながら、穂花が幸せな気持ちでいることを願った。
『ううん、違うよ』
私の期待に反して、穂花の声は沈んでいた。その一瞬で悟ってしまった。
「もしかして、振られたの……?」
『……うん』
「……」
返す言葉が見つからない。まさか、あの神林が穂花を振る? 信じられない。だって最近の神林は穂花と一緒にいることが多かったし、この間デートを盗み見てしまった時だったとても仲睦まじそうに見えた。
『あたしさ、自惚れてたんだよね。永遠はあたしのことが好きなんだろうって信じてた』
「そ、そうじゃないの? だって二人は最近すごくいい感じだったじゃない」
『そう見えてた? でもね、やっぱり永遠にとってあたしはただの幼馴染みだったみたい』
「そんな……」
信じたくなかった。大好きな彼女が、大切な親友が、こんなにも傷ついているということを。
沈んだ声の穂花は私に心配かけまいとしているのか、努めて明るく聞こえるように話してくれているが、言葉の端々から滲み出る落胆の色を感じずにはいられなかった。
「でもどうして? 今更幼馴染みにしか見えないだなんて」
『今更じゃないよ。たぶんずっとそうだったんだ。あたしが都合の良いように解釈してただけ。あいつの表情も仕草も、好きな人に向けるそれではなかったってだけ』
どうしてそんなに理性的でいられるの。
どうしてそんなに淡々と話せるの。
聞きたいことは山ほどあった。でも、間違いなく傷を負った彼女にそんな迂闊なことはできなかった。
『ねえ、よく聞いて。永遠が言ってたことを話すから』
「神林が話してたこと?」
『そう。あのね、あいつには好きな人がいるらしい。誰とは聞いてないけれど——』
明るいスマホの画面を閉じて再び布団に潜り込もうとしたのだが、突如としてスマホが震え出した。私は慌てて画面をもう一度見る。着信だった。こんな時間に? けれど「井元穂花」という表示を見てあっと声を上げた。
「……もしもし?」
『ごめん、こんな遅くに』
どうせ眠れないのだから大丈夫だとはあえて言わずに、彼女の報告を待つことにした。
「今まで神林と一緒にいたの?」
頭の中で想像した二人だけの時間を思い浮かべながら、穂花が幸せな気持ちでいることを願った。
『ううん、違うよ』
私の期待に反して、穂花の声は沈んでいた。その一瞬で悟ってしまった。
「もしかして、振られたの……?」
『……うん』
「……」
返す言葉が見つからない。まさか、あの神林が穂花を振る? 信じられない。だって最近の神林は穂花と一緒にいることが多かったし、この間デートを盗み見てしまった時だったとても仲睦まじそうに見えた。
『あたしさ、自惚れてたんだよね。永遠はあたしのことが好きなんだろうって信じてた』
「そ、そうじゃないの? だって二人は最近すごくいい感じだったじゃない」
『そう見えてた? でもね、やっぱり永遠にとってあたしはただの幼馴染みだったみたい』
「そんな……」
信じたくなかった。大好きな彼女が、大切な親友が、こんなにも傷ついているということを。
沈んだ声の穂花は私に心配かけまいとしているのか、努めて明るく聞こえるように話してくれているが、言葉の端々から滲み出る落胆の色を感じずにはいられなかった。
「でもどうして? 今更幼馴染みにしか見えないだなんて」
『今更じゃないよ。たぶんずっとそうだったんだ。あたしが都合の良いように解釈してただけ。あいつの表情も仕草も、好きな人に向けるそれではなかったってだけ』
どうしてそんなに理性的でいられるの。
どうしてそんなに淡々と話せるの。
聞きたいことは山ほどあった。でも、間違いなく傷を負った彼女にそんな迂闊なことはできなかった。
『ねえ、よく聞いて。永遠が言ってたことを話すから』
「神林が話してたこと?」
『そう。あのね、あいつには好きな人がいるらしい。誰とは聞いてないけれど——』