翌日、すっかり熱の下がった私は学校に行くことにした。
クラスメイトや先生たちから何を言われるのかと考えると緊張したが、いつもと同じバスに乗り、校門前の桜並木の坂道が見えてきた頃には、早まる鼓動が少しだけ和らいでいるように感じた。
深呼吸をして2年2組の教室の扉を開ける。教室に来ていたのはクラスの3分の1ほどの人間だった。しかし彼らは私を見ても、「おはよう」と挨拶してくれるだけで、それ以上は何も聞いてこなかった。ほら、やっぱり。他人からすれば先日私が5時間目をサボったことなんてどうでもいいことなんだよ。

私は、ふと遠藤柚乃がいるはずの廊下側の列を見た。この間の出来事は何かの間違いで、今日はきちんと机が6台並んでいるかもしれないというわずかな期待を込めて。しかし、やっぱり廊下側の列の机は5台しかなかった。私は再び大きく息を吸う。大丈夫。もう動揺なんかしていない。これが現実なのだ。受け入れる他はなかった。

「春山さん、体調良くなったんだ」

「う、うん。この間はごめん」

私が席につくなり声をかけてきてくれたのは神林だ。実は今日、自分から彼にどうやって話しかけようか迷っていたので、彼の方から来てくれていくらかほっとした。

「あとでちょっと話したいことがあるんだけど。昼休み、空いてる?」

「……私も話そうと思ってた。大丈夫」

神林はそれだけ言うと、「そっか」と顔を綻ばせて自分の席へと戻っていった。私だけじゃなくて、彼も緊張していたんだろうか? だとしたらちょっと嬉しい。教室に入る前は神林とどうやって話をしようと悩んでいたのだけれど、あっさりと事が運び、全部杞憂だったんだと思う。
HRの時間になり、雪村先生が教室に入ってきた。私の顔を見て、「熱下がって良かったな」と一言。私はこくりと頷いた。たったそれだけのやりとりだった。普段から授業をさぼっているわけではないので、先生たちもそこまで気にしていないのかもしれない。
お昼前の4時間目が終わるまで、特に何事もなく時間が流れていった。廊下側の列はあえて視界に入れないようにして。柚乃のことがなければ、変わらない一日なのだから。