その後、部屋で適当に時間を潰したあとに、再びリビングに向かう。
久瑠実さんがつくってくれた朝食を食べて、学校に向かう。
これも、慣れてしまった風景。
慣れてしまってはいけない、風景。
わたしは、この家族に混ざってはいけない。
カンバス描かれた美しい絵に、黒いインクが一滴垂れていたら、それはただの汚れたカンバスになってしまう。
そんなこと、絶対に、許されることじゃない。
「愛美お姉ちゃん、どうしたの? 怖い顔して……」
登校中、どうやらわたしに何かを話しかけていた憂ちゃんが、心配そうな顔をしている。
わたしは、きちんと相槌を打ってあげていなかったらしい。
「なんでもないよ。ちょっと疲れただけだから」
「そうだよねー、月曜日って、元気出ないよねー」
憂ちゃんはわたしの言い訳を都合よく解釈してくれたようで、大袈裟にため息をついた。
「そうだ、愛美お姉ちゃん。スマホ、ちゃんと持ってきてる?」
「うん、持ってきてるけど……」
すると、憂ちゃんはちょっと言いにくそうに、話を切り出した。
「うーんとね、昨日設定した通信アプリなんだけど、アレ、通知来ても、音が鳴らないようにしといたほうがいいよ」
何故か憂ちゃんは、背伸びをしてわたしの耳の近くで、そっと囁く。
「パパね、私たちが学校行ってるときも、どーでもいいこと報告してくるの。ママが上手く返信してくれているから、基本、返信しなくてもいいけれど、たまにテキトーに相手してあげないと拗ねちゃうんだよねー」
ほんと、どっちが子供なのかわかんないよー、と愚痴っぽく溢す憂ちゃんだったけど、少し自慢げにしているような話しかただった。
「わかった、ありがとう」
えへへ、と隣で笑う憂ちゃんの助言に従って、わたしは通知アプリの設定をし直しておくことにした。
それは、スマホを買ってもらったばかりのわたしには、丁度いい操作練習の時間となった。