「あの、わたし……必要ないですから。機械とか……苦手ですし」
なので、わたしにしては珍しく、本音を吐露することになった。
機械が苦手という、どうでもいい情報が嘘というわけじゃない。
わたしには、携帯なんて必要ないのだ。
――だって、連絡をとりたい相手なんて、いなのだから。
このとき既に、わたしの中の近江一家に対する気持ちが、微妙に変化していたのだけれど、わたしはそれに気づくことはなく、そのまま話を進めていた。
「うーん、でもごめんね。これは愛美ちゃんには必要っていうのもあるんだけれど、本当のことを言っちゃうと、私が持っててほしいのよ。ほら、この前みたいに愛美ちゃんに何かあったら怖いし、お友達と遊びにいったら、帰りの時間なんかも教えてほしいから」
久瑠実さんは、珍しくわたしの意見を聞いても一歩も引かなかった。
この前みたいに……っていうのは、多分わたしが万引き犯に仕立て上げる中学生と遭遇したときのことだと思う。
そして、久瑠実さんの性格を考えれば、わたしに携帯を持たせたいという意見も納得できるものだった。
「大丈夫大丈夫! スマホってさ、難しそうに見えて、めちゃめちゃ簡単だから! このあたしのセンスに任せてくれれば、愛美ちゃんにぴったりのスマホを探してあげるよ!」
目をキラキラさせながら、憂ちゃんが宣言する。
いや、この子に任せるのは不安すぎる。
「愛美ちゃん。遠慮しなくていいと思うし、罪悪感を持つこともないよ。父さんたちがこういう人だっていうのは、もう分かってると思うし、大人しく言うことを聞いていたほうが楽だと思うよ」
わたしだけに聞こえるように、そう小さな声で呟いたのは、蓮さんだった。
蓮さんの言葉は、説得力があって、わたしに拒否権がないことくらいも、近江家で過ごすことによって嫌でもわかってしまうようになってしまった。
蓮さんのいう通り、この人たちは、きっとこういうことを、何の疑問も持たずにやってしまう人たちなのだ。