わたしと智子(ともこ)の関係は、おおむね順調に進んでいた。

 普通の友達のように、教室でおしゃべりするふりをしたり、お昼ごはんを一緒に食べることで同じ時間を過ごす。

 智子は約束通り、わたしに干渉してこなかったし、余計なことを聞いてこなかった。

 下の名前で呼び合うなんて、そんな大それたことを実行してしまう子だから、若干の契約内容とは異なる関係を築かれるのではないのかと危惧したりなんかもしたけれど、それは杞憂に終わってくれたみたいだ。

 むしろ、この関係の利便さを、改めて思い知らされる。

 わたしが智子と話すようになると、今まで休み時間に話しかけて来たクラスメイトたちの足が、自然と遠ざかっていくのを肌で感じた。

 どうやら、もうわたしには友達ができて、自分たちのグループには属さないから、話しかける必要がないと判断したらしい。

 面倒事が、ひとつ解消されたというわけだ。

 ただ、わたしの予想外の出来事があったとすれば、智子との放課後の勉強会が日課となってしまったことだ。

「智子、あんたには、予定とかないの?」

 毎日わたしの暇つぶしに付き合ってくれる智子に、そう問いただしたことがあった。

 これは正直、あとから思えば、お互い余計な干渉はしないという、わたしが自分で言ったルールを無視している質問だったけれど、幸いにも、智子は機嫌を損ねることなく、その質問に答えてくれた。

「うん、大丈夫だよ。私も、あんまり家には帰りたくないから」

「そう……」

 さすがにそれ以上、深くは追及しなかった。

 それぞれの家庭には、それぞれの事情ってやつがあるのだろう。

 わたしだって、家族のことを聞かれたら、黙秘権を行使するだろう。

 ただ、家族と言えば、わたしにとってはまた違った形の問題を抱えていた

 もちろんそれは、近江一家との関係だ。

 つい先日、わたしの嘘が蓮さんにばれてしまっているんじゃないかと疑うようなやりとりがあった。

 それ以来、一緒にご飯を食べているときなんかは、この家族がわたしをどう思っているのか気になってしまい、緊張した面持ちで食卓を囲まなくてはいけなくなってしまった。

 だけど、そんな心配をよそに、憂ちゃんはこれまで通りわたしに嫌というほど付きまとってくるし(学校でも、勉強会をするといっているのに、教室まで迎えにくる)、由吉さんも久瑠実さんもわたしに対して、凄く優しく接してくれる。

 そして、蓮さんもあれ以来、とくに何かを言ってくることはなかった。