「――ごちそうさまでした」

 わたしはそう言って、1人、席を立つ。

 久瑠実さんの料理はいつも上手で、とっても美味しかったけど、どうしてかわたしは、その味が好きになれそうになかった。

 わたしなんかが、味わって食べていい料理じゃない気がしてたまらない。

「愛美ちゃん」

 リビングから出て、用意された部屋に入ろうとしたとき、呼び止められて振り返る。

 そこには、眼鏡の奥の眼光が鋭く光る、蓮さんの姿があった。


「愛美ちゃん、この場所は、居心地が悪いかい?」


「えっ?」


 固まってしまったわたしは、その場で動けなくなる。

 蓮さんの質問に、どう答えたらわからなかった。

 どう言い訳すればいいのか、わからない。


「君はいつも、僕たちから逃げるようにしているよね?」

 その質問にも答えられず、場は沈黙が支配する。

 だけど、不穏な空気をすぐに察したのか、蓮さんが柔らかい笑みをつくって、わたしに優しく語りかける。

「ごめん。これじゃ、愛美ちゃんを責めているように聞こえちゃうね? だけど、勘違いしないでね? 僕は、それが悪いことじゃないって言いにきたんだ。誰だって、知られたくないことはあると思うから」

 だけどね、と、蓮さんは話を続ける。

「もしも、愛美ちゃんがいつか、僕たちに、この家に来た本当の理由を教えてくれる日が来たら、僕は……僕たちは全力で、君の力になるから。それだけはちゃんと伝えたかったんだ」

 そう言って、蓮さんは、わたしの横を通り過ぎ、自分の部屋へと戻っていった。

 わたしは、ただただ動揺するしかなかった。

 それと同時に、今まで感じたことがない感情に支配される。