そして、近江家の前まで到着する。
時間的には、昨日とそれほど変わらなかったので、玄関を開けると(鍵はあずかっているのだ)、久瑠実さんが作ってくれたであろう夕食の匂いが漂ってきた。
魚を焼いた、香ばしい匂いだ。
「おかえりなさい! 愛美お姉ちゃん!」
扉を開けて靴を脱いだ瞬間、待ちわびたとばかりに、リビングの方から憂ちゃんが飛び出してきた。
そんな憂ちゃんを適当に相手をしながらリビングに入ると、予想通りキッチンで久瑠実さんが調理中だった。
「おかえりなさい。愛美ちゃん。お勉強お疲れ様」
にこっと微笑みながら、わたしに労いの言葉をかけてくれる久瑠実さん。間違いなく、憂ちゃんが報告したのだろう。
その後、しつこく勉強会の様子を聞いてくる憂ちゃんと一緒に、面白くもないテレビの画面を見ながら過ごしていると、由吉さんと蓮さんも帰って来て晩御飯をみんなで食べた。
今日の晩御飯のメニューは、ブリの照り焼き。
相変わらず、真ん中のおおきなお皿に、切り身がいっぱい乗っけてあるスタイルだった。
「愛美ちゃんがお勉強をして帰ってくるって聞いて、ちょうどスーパーで安売りしてたから買ってきたのよ。これで、少しは愛美ちゃんの力になれたら嬉しいわ」
「ん? ママ、『ちょうど』って、どういうこと? ブリって今が旬だったっけ?」
「それはね憂、ブリには、『DHA』っていう、学習能力を高めてくれる成分が多く含まれているんだよ。『日本の子供の知能指数が高いのは、日本人が昔からたくさん魚を食べていたことが理由の1つ』っていう研究結果もあるくらいだからね」
「そうなのか蓮! よし、憂! どんどん食べろ! 賢くなるぞ!」
うん! と元気よく返事すると、憂ちゃんは一切れ、二切れと、自分の受け皿に乗せていく。
「……ただし、食べるだけで賢くなるわけじゃないから気を付けること。このあとちゃんと勉強しないと、賢くならないよ」
「うわ~ん! 騙された!」
蓮さんの説明を受けて、悔しそうに、憂ちゃんは自分の頭を抱えて悶えていた。
いや、このあと勉強すればいいじゃん、という突っ込みは誰もせず、久瑠実さんも、そして由吉さんも、笑い声を上げた。
本当に、賑やかな家族で、わたしの知らない家族の形だと思う。
だからこそ、わたしはここに、混ざることができない。