彼女は自己評価通り、勉強面に関しては賢い学生だった。

 それに、勉強ができる人の特徴としてよくあげられる、教え方が下手だということもない。

 わたしがどこを理解していなくて、どこを理解しているのか、ちゃんと分かって解説してくれる。

 おかげでストレスなく、ただの時間つぶしだった彼女との時間で、わたしは本当に勉強に取り組むことができた。

「わたし、こうして誰かと一緒に過ごすのって、凄く久しぶりだな……」

 智子は、わたしの隣で一度、そんな風に呟いた。

 それは本当に、嬉しそうに言っていたのだ。

 でも、一緒の時間を過ごしたはずのわたしは、智子の気持ちがこれっぽっちも理解できなかった。

 わたしと一緒にいて、どうしてそんな表情ができるんだろう?

 本当に、わたしには、理解できない。

 そういえば、憂ちゃんもよく、今の智子のような表情をしている。

 いや、憂ちゃんだけじゃない。

 近江一家は、わたしのことを温かい目で見てくれて、優しくしてくれる。


 その優しさに、わたしは、どうすればいいのか、わからない。


 わからないのだ。


「……愛美ちゃん?」

 わたしがノートを書く手を止めてしまったことに気付いたのか、心配そうな声で、智子がこちらを見つめてくる。

「なんでもない……」

 言い訳がましく、わたしはそう言って再び手を動かすことに集中した。

 そのおかげか、気が付けばわたしのノートにはびっしりと文字や数式が書き込まれていた。

 そして、最終下校時刻を告げるチャイムが鳴り響き、勉強会はスムーズに事なきを得た。