「……えっ?」

 ――だけど、わたしの足は止まる。

 何故なら、わたしの制服を頼りなく、倉敷さんが握ったからだ。

「それでも……それでも、わたしは、あなたに助けてもらったの。だから、せめて、せめてこれだけは、ちゃんと言わせて」


 ――ありがとう、遠野さん。


 彼女は、小さな声でそう呟いた。


 やめてよ……。

 そういうのだけは、本当に駄目なんだってば……。


 わたしは、耐えきれなくなって、振り返る。

 倉敷さんは涙を流しながら、笑顔で、わたしのほうを見つめていた。


 ああ、どうしてわたしは、いつもこうなんだろう。

 自分の人生が、全然思い通りにならない。

 わたしは、ただ自由になりたいだけなのに。


 どうして、世界はわたしと関わろうとするのだろう?


「…………ご飯だけ」

「えっ?」

 わたしは、ぶっきら棒に告げた。

「ご飯だけ付き合ってあげる」

 わたしは、これ以上倉敷さんの表情を見るのが嫌で、乱暴にベンチに腰掛けて、持っていたお弁当箱を開ける。

「うっ、うん!」

 そんなわたしの行動に、どうしてそこまで嬉しそうにできるのか理解に苦しむ。

 一体、どうしてこの子はわたしに拘るのか。

 そんなことを一瞬だけ考えたが、すぐに結論に至ってしまう。

 いやいや、そんなこと、分かりきっていることじゃないか。