「お礼がしたいっていうのなら、今後一切、わたしに声をかけないで」
「……えっ?」
冷たく言い放ったその言葉に、倉敷さんの表情が強張る。
「それじゃあね、倉敷さん」
そのタイミングを見計らって、わたしは倉敷さんの横を通って席に着いた。
それでも、倉敷さんはわたしの席のところまでやってこようとしていたようだけれど、結局は自分の席に戻った。
そうだ、これでいいんだ。
わたしは誰とも関わらない。
誰とも仲良くならない。
そう決意して、ここに来たんだ。
幸い、倉敷さんはクラスでも目立つ存在ではないと思うので、先ほどのわたしの態度を流布するようなことはしないだろう。
誰とも仲良くするつもりはないが、クラスメイトから『生意気な転校生がやってきた』なんて思われるのも癪だ。
よし、学生は学生らしく、今日も勉学に勤しもう。
そんなわたしの気持ちと連動するように、学校のチャイムの音が教室に響く。
そして、寝癖がついたままの担任の先生の話を聞き流しながら、気持ちを切り替えて、一時限目の授業の準備をする。
わたしは、鞄の中から乱暴に教科書を取り出した。