憂ちゃんとわたしが近江家に戻ってくると、すでにリビングからはカレーのいい匂いがしていて、反射的にお腹が鳴ってしまいそうだった。
だが、そんな呑気な感想とは裏腹に、玄関まで出迎えてくれた久瑠実さんは、とても心配そうな顔だった。
「憂ちゃん! こんな遅くまでどこに行ってたの! 携帯に連絡しても全然返事来ないから心配していたのよ!」
今にも娘に抱き着こうと云わんばかりの勢いだった久瑠実さんだったけど、憂ちゃんは「いやー、携帯の充電切れててさー」と、実に呆気らかんとした態度だった。
その様子に毒牙を抜かれたのか、久瑠実さんは大きくため息をついたあとに、わたしのほうに目線を向けた。
「愛美ちゃん、ごめんなさいね。この子のわがままに付き合ってくれていたんでしょ?」
柔らかい笑みを向けながら、そう言ってくれる久瑠実さん。
その態度に、妙に気恥ずかしくなってしまったわたしは、
「いえ……別に……大丈夫です」
と、そっけない返事をしてしまった。
でも、それで満足したのか、久瑠実さんは笑みを崩さないまま、わたしたちにこう告げる。
「お腹、すいてるでしょ? そろそろ蓮くんも由吉さんも帰ってくるから、2人とも夕食の準備、手伝ってもらえるかしら?」
はーい、と返事をした憂ちゃんと一緒に、わたしは、久瑠実さんと夕食の手伝いをした。