「遠野……愛美です。これからどうか……よろしくお願いします」
わたしは最低限の挨拶だけして、ちらっと先生を見た。
先生は「えっ、それだけか?」という表情をしていたが、わたしがこれ以上は何も言わないことを察してくれたようで「……それじゃ遠野は、一番後ろの席を使ってくれ」と告げてHRを再開した。
席について、ふっ、と肺に溜まった空気をすべて吐き出す。
少しまごついたかもしれないが、おそらく許容範囲だろう。
このクラスの人間は、わたしのことを普通の転校生だと思ってくれたはずだ。
注目が集まっているのは今だけで、その好奇心もすぐにはがれていくだろう。
そうすれば、わたしは空気のように、ただ当たり前にそこにいるけれど、認識はされない存在になるように努めよう。
これからの学校生活は、誰とも関わらないと決めている。
だからこそ、わたしはみんなの前で、「仲良くしてくださいね」なんていう社交辞令を、口が裂けても言わなかった。