「愛美お姉ちゃん?」
そんなわたしを不思議そうに見てくる憂ちゃん。
そして、わたしは絞り出すような声で近江一家に尋ねる。
「あの……、みなさん、まだご飯……、食べていないんですか?」
わたしは、食卓に料理が並べられているというのに、誰一人として手をつけていないという光景に、疑問を呈するほかなかった。
「んー? そんなの決まってるじゃないか、愛美ちゃん」
だが、そんなわたしの質問に、あっけらかんと答えてくれたのは、由吉さんだった。
「食事は、みんなで食べるもんだよ」
由吉さんの発言に続くように、蓮さんが言葉を紡ぐ。
「これが、父さん……、近江一家の掟みたいなものなんだよ」
「ほらほらー、愛美お姉ちゃんも早く席に着きなよー」
今のわたしと同じ制服を着た憂ちゃんがわたしを呼ぶ。
そういうもの、なのだろか?
わたしの記憶の中には、もう誰かと一緒にご飯を食べるというものが存在しなかったので、これには衝撃というか、一種のカルチャーショックのようなものを与えられた気分だった。
だけど、郷に入れば郷に従え、か……。
わたしは昨日、同じように夕食を食べた自分の席(らしい)に座って、朝食を摂る。
食卓にはロールパンとベーコンエッグが並んでいたが、昨日の夜と同様、それぞれに配分されてはおらず、一カ所に集められたバケットと皿の中から手を伸ばしていく方式だった。
ホテルのバイキングみたい、という突っ込みをどうにか飲み込んで、わたしは遠慮がちにロールパンをひとつだけ頂いて、乱暴に牛乳で流し込んだのだった。