「あー、パパそこ邪魔だからどいてー」
ふと、そんなことを考えてしまっていたところに、女の子が聞こえてくる。
廊下には、髪型をボサボサにしたまま下の階に向かおうとする憂ちゃんが横切るのがみえた。
しかし、何かに気付いた憂ちゃんは、一度通り過ぎたわたしの部屋に再び戻ってきた。
「ん? っていうかパパ! また勝手に愛美お姉ちゃんの部屋に入ってるじゃん! ママに怒られても知らないからねっ!」
「うげっ、そっ、それは困る! 愛美ちゃん! それじゃ下の階で待っているから!」
そう言い残して、由吉さんは急いで下の階へと戻っていった。
全く、朝から慌ただしい人たちだ。
さて、わたしもリビングに向かう準備をしたほうがいいだろう。
昨日のうちに久瑠実さんが用意してくれた学校の制服に着替えてから、洗面台にいって自分の顔をみる。
鏡の中の自分の顔を殴りたい衝動を今日も抑えながら顔を洗ったのち、リビング前のドアを開けると、すでに一家団らんという具合に、近江一家が席についていた。
「おはよう愛美ちゃん。さぁ、みんなでご飯、いただきましょう」
朝からでも、久瑠実さんのおっとりとした笑顔は健在だった。
そして、わたしの姿をみると、空いている席に座るように促した。
だけど、しばらくわたしはその場で固まってしまうことになる。