「さぁさぁ、それじゃ家をバックにして、写真を撮ろうか!」

 由吉さんの号令で、皆がリビングから出ていこうとする。

「さぁ、愛美ちゃん。今日の主役はあなたなんだから!」

 そういって私の手を掴んだ久瑠実さんは、ソファからわたしを立ち上がらせて一緒にリビングから出ていった。

 写真は、由吉さんの指示通り、家をバックにして撮影される。


 わたしは、その写真の中で、どんな表情をしていただろうか?


 きっと、不機嫌そうな顔を浮かべているに違いない。


 わたしは、そういう人間だ。


 由吉さんは、「現像するのが楽しみだ」なんて言っていたけれど、わたしは全然これっぽっちも楽しみなんかじゃなくて、見たくもないと思った。

 やっぱり腐ってるな、根性が。

 いや、根性じゃなくて、心まで腐ってしまっているのだろう。

 今日は、わたしにとって、まるで異世界に迷い込んでしまったような、そんな気分だった。

 特に夕食を食べるときに、驚いたことがひとつあった。

 今日の夕食は、わたしが来たお祝いということで、からあげやオムライスといった、いかにも子供が好きそうなメニューが豊富に並んでいたのだが、それら全てが、種類ごとに大きなお皿一枚の上に並べられていたのだ。

「こうやって、みんなで仲良く分けて食べるのが、うちの食卓のルールなんだよ」

 得意げに、由吉さんがそう説明してくれた。

 実際、みんなはそれぞれの皿に手を伸ばして、好きな食べ物を自分の小皿に乗せていった。

 憂ちゃんは、蓮お兄ちゃんがあたしの分のオムライスまで食べていると嘆き、蓮さんはやれやれと溜息を吐きながら、最後に出てきた兎型に切られたリンゴを憂ちゃんに一つ多く渡したり、そんな、実に兄妹らしいやりとりをしていた。

 毎日の食事が、殆ど自分で買ってきたコンビニ弁当だったわたしには、誰かと食べ物を分け合うなんて考えが、全く理解できなかった。