「遠野……愛美です。今日からよろしくお願いします」
これが、わたしの精一杯の自己紹介だった。
自己紹介どころか、自己表現もできていないひどい有様だったので、恥ずかしくて一刻もここから立ち去りたい気持ちになってしまった。
「わーい、愛美ちゃん! 愛美ちゃんは今日からあたしのお姉ちゃんだよ! ねぇねぇ、これからは愛美お姉ちゃんって呼んでいいかな!」
しかし、そんな劣等感に浸る余裕もなく、憂ちゃんが靴置き場を裸足のまま降りてきてわたしに抱きついてきた。
「あっ、ずるいぞ憂! お父さんも愛美ちゃんに抱きつきたい!」
「あらぁ由吉さん……。それは妻としても、母親としても聞き捨てならないお話ですねー」
「いやいや! そういう意味じゃないよ久瑠実さん!」
ゴゴゴ、と優しい目を向けているはずなのに、どうしてか目の前で不穏なオーラを放つ久瑠実さんに対して、必死で弁解を試みる由吉さん。
「愛美ちゃん、こんな騒がしい家族だけど、これからもよろしくね」
無邪気に抱きついてくる憂ちゃんに困りながらも、小さな声で呟いた蓮さんの言葉がわたしの耳に届いた。