ひねくれ者で。
臆病で。
人間不信なやつかもしれないけれど。
それでも、少しずつ、前に進もうと思う。
額に汗が溜まってきたところで、近江家の立派な一軒家が見えてきた。
そして、その一軒家の扉の前で、なにやら揉めているような人影が見えたかと思うと、由吉さんの声が聞こえてきた。
「やっぱり愛美ちゃんを迎えに行くよ!」
「もう、いい加減にしてよパパッ! さっき愛美ちゃんから『もうすぐ帰る』って言われたんでしょ?」
「そうだよ父さん。あまり過保護だと、愛美ちゃんから嫌われるよ?」
今にも玄関から外に飛び出そうとしている由吉さんを必死で止める子供二人の姿は、どこかこう……シュールというか、どっちが子供なんだと思わず言ってしまいそうだった。
だが、事態の中心がわたしである以上、由吉さんの行動を無下にすることもできない。
わたしは恐る恐る、近江家へと近づいていく。
「あっ、愛美お姉ちゃん!」
わたしに最初に気付いたのは、憂ちゃんだった。
憂ちゃんはわたしの姿を見ると、靴下のまま外に出てきて、わたしに寄ってきた。
「あれ、愛美お姉ちゃん、ヘアピンしてたっけ?」
そして、すぐに智子から貰ったヘアピンに気が付いた。やっぱり女の子なので、オシャレには敏感らしい。
「やっぱり、似合ってないよね……」
言い訳のように呟いたわたしだったが、憂ちゃんは首をブンブンと横に振りながら、こう言ってくれた。
「ううん! 凄く似合ってる! 可愛いっ!」
憂ちゃんの感想に、やっぱりわたしは恥ずかしくなってしまって、視線を逸らす。
「憂、愛美ちゃんが困ってるだろ」
そんな風に、蓮さんもわたしのところにやって来る。きちんと靴を履いているところが蓮さんらしい。
「愛美ちゃん。母さんのご飯がもうすぐできるから、早く家に入ろう」
それだけ言って、蓮さんは家の中へと戻ろうとする。
「あっ、あの、蓮さん。その……色々とすみませんでした」
わたしは、今までたくさんの人に迷惑をかけてしまったけれど、多分、一番わたしと向き合ってくれたのは蓮さんで、これ以上ないくらい、迷惑をかけてしまっている。
だから、多くの意味を込めた謝罪だったのだけど、
「ん? 何のことかな?」
と、今日もはぐらかされてしまった。
やっぱり、この人には敵わないと、わたしは思った。