「すいません、すぐ帰りますから」

『うん、わかったよ。あっ、今日は久瑠実さんがコロッケ作ってくれてるから楽しみにしててね!』

 そう言い残して、由吉さんは通話を切った。

 別段、コロッケに釣られたわけではないのだけど、わたしの足取りは少しだけ速くなって、気が付いたときには、駆け足になっていた。

 そのとき、わたしは智子からもらった、ヘアピンを付けたままだということに気が付いた。

 智子は、このヘアピンを選んだ、もう一つの理由を、教えてくれた。

『いちごにはね、さっき言った『尊敬と愛』っていう花言葉とは別に、こういう意味があるんだって』

 勿体ぶりながら教えてくれた、いちごの花言葉を、わたしは呟く。


「『幸福な家庭』……かぁ」


 もう二度と、わたしには手に入らないものだと思っていた。

 だけど、もしかしたらわたしにも、そういう未来があるのかもしれない。

 わたし自身が求めれば、彼らは、受け入れてくれるから。

 こんなわたしでも『家族』だと、言ってくれた人たちがいる。

 急には無理かもしれないけれど、わたしも少しは、彼らの期待に応えようと思う。