病院を出ると、空が夕焼けで真っ赤に染まっていて、最寄りのバスから下車したときには、街灯が点灯していた。
結局、智子は面会時間をいっぱいに使って、わたしとおしゃべりをした。
内容は、正直言って、あまり覚えていない。
だけど、楽しかったことだけは覚えている。
わたしと智子にとっては、それだけで十分だった。
でも、ひとつだけ、そのことが原因で、迷惑をかけてしまった人たちがいるようだった。
ポケットに入れていたスマホが、振動する。
つい先日、由吉さんたちに再度買ってもらったものだ。
憂ちゃんの強行決議によって派手なピンク色の機種になってしまって、人前で取り出すのは憚れていたのだが、幸い、今は誰も周りにいないので、躊躇なく取り出す。
画面には、通話相手の名前が表示されて『近江 由吉』となっていた。