「それ、わたしも持ってるんだよ」

 そういうと、智子は病院服のポケットに入れていたのか、いつのまにか、わたしに渡した同じヘアピンを付けているところだった。

「えへへ、これでお揃いだね」

 幼い顔立ちをしている智子には、よく似合っていたけれど、果たして、わたしに似合うとは、とても思えないのだが……。

「もしかして……あんまり嬉しくなかった?」

 だが、心配そうに見つめてくる智子に、そんなことを言えるはずもなく、

「わかったよ! 付ければいいんでしょ付ければ!」

 半ばやけくそに、わたしはヘアピンで前髪を止めた。

「うん、やっぱり似合ってる」

 智子の感想を聞いて、自分の耳が真っ赤になるのがわかった。

 智子は憂ちゃんに似ているところがある。わたしを困らせることなんてそっくりだ。

 ただ、それも悪くないと思ってしまう自分もいるのが、昔のわたしからは想像できないことだった。

「わたしがいなくなっても、ちゃんと大事にしてね、愛美ちゃん」

「……わかったよ」

「それと、大事なことを教えてあげる。いちごにも花言葉があって、『尊敬と愛』っていう意味があるんだって。わたしが愛美ちゃんに送るプレゼントだって考えれば、ぴったりだと思わない? 愛美ちゃんの文字も入ってるし、わたしは、愛美ちゃんのことが大好きだから」

 わたしとは違って、そんなことを平気で言ってしまう智子を、冷たくあしらう。

「重い」

「あはは」

 軽く笑われて一蹴されてしまった。

 どうやらもう、わたしの冷淡な態度は、もう彼女には通じないらしい。

「愛美ちゃん。元気でね。わたしも元気でいるから。今度会ったときは、本当の友達として、遊ぼうね」

「うん、わかった」

 素直に、わたしは肯いた。
 いつになるかはわからないけれど、智子がこの街に帰って来たときは、付き合ってあげよう。

 ショッピングセンターにも。

 レトロな映画館にも。

 静かな図書館にも。

 どこにだって付いて行ってあげよう。

 わがままを聞いてあげるのも、友達の役目なのだから。

「智子、また会おうね」

 わたしのほうからも、彼女と約束を取り交わす。

「うん」

 それに、智子はにっこりとほほ笑んで、答えてくれる。

 わたしはまだ、笑顔を上手くつくることができない。

 だけど次に会うときには、智子にちゃんとわたしの笑顔を見せてあげようと、決意した。