「どいてください。わたしは、行かないといけません」
冷たく、無感情に発した言葉を聞いて、憂ちゃんが「ひっ」と久瑠実さんのパジャマを強く握ったように見えた。
そうだよ、憂ちゃん。わたしはこういう、ちょっとおかしな人間だから、怯えて、嫌いになってほしい。
そうすれば、わたしも心残りがなくなるから。
わたしは、誰からも嫌われる、最低な人間になれる。
人殺しだって、怖くなくなる。
「駄目だ。どくわけにはいかない」
しかし、由吉さんは、わたしを通そうとはしなかった。
「愛美ちゃん……、昨日、君たちに何があったのか僕にはわからないし、無理に聞こうとは思わない。だけど、君がこれ以上傷ついてどうする? そんなこと、僕が許さない」
「……言っている意味がわかりません」
わたしが傷つく?
この人は一体何を言っているのか、わたしはわからなかった。
「愛美ちゃん、僕は、烏滸がましいかもしれないけれど、君が手紙をくれたとき、この子を助けなくちゃいけない……って思ったんだ。君の家庭の事情は、少しだけど、聞いていたから」
ビクッ、とわたしの身体が震えてしまう。
「なんで……」
なんで……なんでいま、その話をする。
頭の中で、小さなノイズが響いて、言葉に変換されていく。
母親の声が、わたしの意識を支配する。
――あんたなんて……。
――あんたなんて、生まれてこなければ良かったのに。