「愛美ちゃん! 近江家へようこそ!!」
パァン! という空気がはじける音とともに、私の目の前で色とりどりのリボンが宙を舞っていた。
いきなりのことに固まってしまっているわたしに、最初に声をかけてくれたのは、優しい顔立ちをした女性だった。
「愛美ちゃん、いらっしゃい。長旅で疲れたでしょう?」
由吉さんとはまた違う、女性特有の母性溢れる雰囲気を持つその女性は、わたしに近づいてきて、優しく微笑みかけてくる。
そして、わたしがそんな彼女と一方的な握手を交わしていると、また別の人物が声をかけてきた。
「愛美ちゃん。父さん、君に迷惑かけなかったかい?」
彼は眼鏡をかけた男の人だった。
由吉さんと同じくらい背が高かったけど、端正な顔立ちで、たぶん高校生くらいだと思う。
「それがさー、パパったら1時間も愛美ちゃんのこと待たせたらしいよ! 女の子を待たせるなんてほんっと男として失格だよ!」
そして、その男の人の隣で怒っている女の子は、少し茶色が混じってウェーブのかかる髪の毛が特徴的な子だった。
年齢はわたしと同じか、年下のようにみえる。
「あっ、愛美ちゃん。あたしがパパに教えてあげたクレープ食べた?」
「あっ、はい……。ごちそうになりました」
女の子の質問は、念のため敬語で対応しておいた。
「おっ! どうだったかな? 憂ちゃんオススメクレープの味は?」
頬と頬がくっつくんじゃないかと思うほど顔を近づけてくる。
そんな彼女の名前は、憂ちゃんというらしい。
そういえば、由吉さんからその名前を聞いたような気がする。
得意げな顔で見つめてくる憂ちゃんに、わたしはどうしたらいいのかと困っていると、先ほどの眼鏡の男の人が彼女の服を引っ張りながらため息をついた。