そしてわたしは、キッチンへと足を運ぶ。
久瑠実さんの掃除が綺麗に行き届いていて、シンクもピカピカだった。
なのに、わたしが侵入したことによって、薄汚れた場所に変化してしまったように感じたのは、もはや皮肉を通り越して、自意識過剰ともいえる。
どうしてこんなことを、思いついたのかはわからない。
だけど、わたしはもうやると決めたのだ。
そして、シンクの下の棚を開けると、目的のものは、すぐに見つかった。
わたしは数種類あった包丁の中から、一番鋭利なものを手に取った。
ためしに、人差し指で刃先をなぞってみると、チクッとした感覚とともに、赤い液体が流れだしてきた。
うん、これなら大丈夫。
わたしは今まで包丁なんて、家庭科実習でしか握ったことはなかったけれど、柄を握りしめると、何故だかしっくりときてとんでもない力を手に入れてしまったような錯覚に陥ってしまう。
これで、準備は整った。
あとは、わたしがこの家から出ていくだけだ。