「さぁ、帰ろう。愛美ちゃん」

 やっとわたしを解放してくれた由吉さんが、優しい口調でわたしにそう言った。久瑠実さんも、わたしの手をとって、自分の手で包むようにしてくれた。

 そんな彼らに、わたしは返事もしなければ肯くこともしなかったけれど、由吉さんたちはとぼとぼと歩くわたしに合わせて、警察署を後にした。

 由吉さんが運転する車に乗っても、わたしは無言を貫いた。

 いま自分が、どんな表情をしているのかもわからないし、窓に反射する自分の姿も見たくなかった。

 運転する由吉さんはともかく、助手席じゃなく、後部座席でわたしの隣に座った久瑠実さんも、わたしに何も聞こうとはしなかった。

 そして数十分後、車は近江家へと到着した。結局、車の中では、わたしは一言も彼らと口を聞かなかった。

 玄関を開けると、ドタドタドタッと、フローリングが壊れてしまうんじゃないかと思うくらいの勢いで、憂ちゃんが飛び出してきた。

「愛美お姉ちゃん!」

 憂ちゃんの顔は、涙で真っ赤に腫れ上がっていて、くしゃくしゃだった。そして、わたしの姿を見ると、また大粒の涙を流していた。

「こら、(ゆう)ちゃん。そんなにくっついちゃ、愛美ちゃんが困るでしょ?」

「だって! だって~!! うわあああああんっ!!」

 久瑠実さんが、そんな憂ちゃんの頭を撫でた。それでも憂ちゃんが泣き止む様子はない。まともに口を聞ける状態でもなかった。

 憂ちゃんも、由吉さんたちからある程度のことを聞いていたのだろう。感情の起伏が激しいこの子らしいと、わたしは思う。

 自分のために流してくれる涙だってわかっていても、その程度の感想しか出てこない。

 わたしは、もう後戻りできないくらい壊れてしまった自分を、このとき実感した。

 そんな憂ちゃんの横を通り過ぎようとしたとき、リビングから蓮さんが出てくるのが見えた。

 彼は、いつものように澄ました顔をしている。だからこそ、わたしは彼と顔を合わしたくなかった。

 きっと、勘の鋭いあの人なら、いま私が考えていることなんて、見透かされそうな気がしたからだ。

 ただでさえ、今日の蓮さんとのやりとりで、こっちは気まずくなっているのだ。

 わたしは、近江家の人たちを無視する形で、二階へと足を運ぶ。