数時間、おまわりさんはわたしと会話したけれど、これ以上は不毛だと判断したのか、腕時計を見て、呟いた。

「もうこんな時間か……。もう帰ったほうがいいね。悪いけど、また話を聞きにいくと思うけど、今日のところはもう帰りなさい。保護者の人も迎えに来てくれてるから」

 部屋にいたもうひとりの若いおまわりさんと目配せしながら、そんなことを言われた。


 保護者って、もしかして……。


 最悪の展開に戦々恐々とするわたしだったけれど、それは杞憂に終わった。

 廊下を出てすぐに、聞き覚えのある声が耳に入ってきたからだ。


愛美(まなみ)ちゃん!」

 スーツ姿の由吉(ゆきち)さんが、わたしのほうに近づいてくる。

 隣には、久瑠実(くるみ)さんもいた。

 おそらく、わたしの名前と制服を見て、学校側から由吉さんたちに連絡が入ったのだろう。

 由吉さんは、大きな身体で、がばっと、わたしを抱いた。

「よかった……ほんとうに、君に怪我がなくてよかった……」

 力強く、痛いくらいに由吉さんがぐっとわたしの身体を抱く。久瑠実さんも、今にも泣きだしそうな顔だった。

 またわたしは、この人たちに迷惑をかけてしまったようだ。

「保護者の方、とお聞きしておりますが、彼女……遠野(とおの)愛美(まなみ)さんは、直接事件とは関わっていないみたいです。ですが、またお話は聞きに行くと思います。それと……」

 さっきまでわたしと話していたおまわりさんは、久瑠実さんにわたしの状態を伝えているようだった。

 おおまか、「精神的に大変ショックを受けているから気を付けてほしい」とか、そんなことを伝えているのだろう。久瑠実さんの不安そうな顔は、一向に晴れる様子はない。