それからのことは、全く覚えていない。
気が付いたら、おまわりさんと一緒にパトカーに乗って、警察署で事情聴取を受けていた。
「智子は……あの子は……大丈夫なんですか?」
「ああ、外傷は酷いが命に別状はないって連絡が入った」
唯一覚えているおまわりさんとのやり取りは、これくらいだった。
その後、智子の容体を教えてくれたおまわりさんは、現場の状況をわたしから詳しく聞こうとしたのだが、全然答えられないわたしに、頭を悩ませているようだった。
多分、おまわりさんは、わたしが友達のあんな姿を見て、混乱しているのだと思っていたのだろう。
でも、わたしは意図的に彼らに情報を与えなかった。あの現場に伊丹がいたことも話していない。
日本の警察は優秀だから、わたしからの証言が取れれば、すぐにあいつらに捜査の手が回るだろう。
だからこそ、わたしは黙秘した。
せめて1日だけ、わたしに時間を与えてもらうために。