走る。足を動かす。

 今のわたしはそのことだけに全力を注ぐ。

 仕事帰りのサラリーマンが、不審な目を向けられたが、どうでもいい。

 とにかくわたしは、走り続けた。

 息が切れて、苦しかった。


 どうでもいい。

 どうでもいい。どうでもいい。どうでもいい。どうでもいい。


 わたしのことなんて、どうでもいい。

 あの子が、ちゃんと無事でいてくれるだけでいいから。

 お願い、だから……。

 そんな祈りを何度も頭で反芻しながら、走り続けた。

 実際はほんの少しの時間しか経っていないのだろうが、何時間も、走り続けた気がする。

 そして、霧島が指定してきたコンビニの前へと、たどり着く。

 だが、霧島の姿どころか、わたしと同じくらいの学生さえ見当たらなかった。

 智子の姿も、どこにもない。

 感情的になって、スマホを投げ捨てたのはまずかったかもしれない。あれは、智子の居場所を探す唯一の手掛かりだったのに……。

「うっ、うわあああああああああっ!」

 そんな中突如、静観な街中で男性の悲鳴が響き渡る。

 聞こえてきたのは、コンビニの裏からだった。

 嫌な予感がしたわたしは、一目散に、悲鳴が上がった場所へと行くと、そこには尻餅をついた二十代くらいの男性がいた。その隣に、ゴミ袋が放り投げられている。コンビニの制服を着ているので、店員なのだろう。

 そして、わたしに気が付いたその男性が、恐怖に脅えた声を絞り出すように、告げた。

「ひとがっ……ひとがなかにっ……」

 男性が指さした先は、業者用の大きなボックスだった。

 そのボックスが、今は扉が開いて、悪臭を放っている。

 飲食店などのゴミが、放り込まれているのが容易に想像つく。

 わたしは一歩ずつ、そのボックスへと、近づいていく。

 足が重くて、鉛のようだった。

 それを無理やり引きずるようにして、ボックスの前に、立つ。

 開いていた蓋のせいで、すぐに中の様子が、窺えた。