そう思った、矢先だった。
ブー、ブー。
と、ポケットのスマホが、震えはじめる。
タイミング的に、近江家の誰かからの着信だと思った。こんな遅い時間まで独りで外出したことはなかったし、過保護なあの人たちの誰かが、わたしを心配して連絡をしてくることだって、十分に考えられた。
だから、画面を確認したらすぐに電源を切るつもりだった。
しかし、画面には『倉敷 智子』と表示されていた。
「智子!」
期待していなかった分、相手から連絡をくれたことに驚く。だが、そんなことで動揺している場合じゃない。
早く出て、ありったけ文句を言ってやる!
「智子! あんた今どこにいるの! お願いだから変なことしないでっ!」
叫ぶわたしとは対照的に、スピーカーからは雑音しか聞こえてこない。
「ねぇ! 何か言ってよ!」
不安に押しつぶされそうなわたしは、いつのまにか声が震えて……悔しいけれど、目頭が熱くなってきてしまっていた。