「智子、わたしは、あんたのせいで、こんな状況になっているとは思ってない。あとやっぱり、何度も言うけど、あんたがわたしに恩を感じる必要は、ないよ。でもさ……」

 ここから先の言葉を口にすれば、もう後戻りはできない。

 だけど、この子の為を想うなら、言わなければならないことだった。


「本当に、わたしのことを心配してくれるのなら、もう関わらないで。それが、わたしの友達としての、最初で最後のお願いだから……」


 今度こそ、わたしは彼女を拒絶した。

 昨日とは違い、状況を把握したうえでの契約破棄宣言。わたしはもう、独りでも大丈夫だからと伝えたつもりだった。智子もわかってくれると思った……。


「い……やだ」

 だけど、智子の答えは変わらなかった。

「愛美ちゃんが苦しんでいるのに、私だけ傍観者だなんて、絶対に嫌ッ!」

 座っていたベンチから、バッと立ち上がった。握りしめた拳は、ブルブルと震えていて、奥歯をかみしめている。

 わたしはこのとき初めて、智子が怒っている表情をみた。

「私が……なんとかする」

「なんとかって……」

「だから、愛美ちゃんは、心配しないで。ごめんね、私、愛美ちゃんに嘘をついてるの」

「嘘?」

「うん。もう、その人たちとコンタクトはとってあるの」

「なに……言ってんだよ、智子? あんた、まさか霧島(きりしま)たちと……」

「行ってくるよ、愛美ちゃん。もう、愛美ちゃんに酷いことなんてさせない」

 わたしの質問には答えず、智子はわたしに鋭い視線を送り、この場から立ち去ろうとする。

 マズイ! と思って、わたしは智子に手を伸ばそうとした。