放課後になって、わたしは普通に帰るルートより随分と大回りをして近江家に戻ってきた。
今日も、憂ちゃんには、いつものように智子と一緒に勉強をするからと伝えて彼女から逃げようとしていたのだが、昼休みにメッセージアプリで『今日はクラスメイトたちと遊びに行くから迎えにいけない』という連絡が入っていた。
いや、迎えに行くって……。相変わらず、どこか考えがズレているような気がする。
まぁ、言い訳をして遠ざけようとした手前、余計な嘘をついて憂ちゃんから撤退するということに頭を悩ませずに済んだことは吉報だった。
そして、わたしにとって嬉しいニュースは他にもあった。
今日は近江家一同、帰りが遅くなるらしい。
メッセージアプリの情報を見ると、由吉さんは残業があるらしく、久瑠実さんも近所の人たちの集まりで家を空けるとかで夕方の少し遅い時間に帰ってくるらしい。
そして、蓮さんはいつものように学校から塾に直接向かう予定だそうだ。
つまり、今の近江家は誰もいない。
誰にも遠慮せず、1人になれる場所ができた。
それでも、既定のルートとは程遠い道のりで帰ったのは、霧島たちの尾行を気にしたためだ。
特に、憂ちゃんと仲良くしているわたしの姿を見られてしまえば、最悪の可能性として、わたしと下校しているところに目をつけて、標的を彼女にシフトしてしまうことも十分に考えられた。
ただ、現段階ではその心配はしなくて大丈夫だろう。
憂ちゃんも一緒にあの万引き騒動のときに同伴していたけれど、憂ちゃんならわたしと違って霧島たちがコンタクトをとってきたのなら、一番に家族のみんなに相談するはずだ。
今日の朝も、そしてメッセージアプリのトークルームでも、そんな話題は一度も出てこなかったし、現在進行形でわたしに友達と一緒に遊んでいるカラオケの様子を報告してくれている。
普通ならうざったい憂ちゃんの行動だったけれど、この時は元気なことを知らせてくれて、ホッと胸をなで下ろした。