「部屋に……ですか?」
「ええ、少し、お話がしたいの」
久瑠実さんが、由吉さんのように、いきなり部屋に入ってくる人ではないのが救いだった。
わたしは、先ほどまで自分が包まっていた布団を元に戻して、扉を開けた。
すると、久瑠実さんはいつものような優しい笑みをしていたけれど、物悲しい瞳で、わたしに告げた。
「愛美ちゃん、もしかして、体調が悪いの? 今日のお弁当、全然食べていなかったから」
その言葉を聞いて、わたしは「しまった」と言いそうになったのを堪える。
すっかり忘れてしまっていた。
本当は、こういう展開にならないように、中身は全部捨てるつもりだった。
お弁当を残したことを不審に思われないよう、下校するときにどこかのコンビニのゴミ箱にでも捨てるつもりだったけど、最終的には、それができなかった。
昔のわたしなら、なんの躊躇もなく、それを実行に移せたはずなのに……。