「あら、おかえりなさい。今日は早かったのね、愛美ちゃん」

 玄関を開けると、エプロン姿の久瑠実(くるみ)さんが出迎えてくれた。

「……はい、今日は友達がいなかったので」

「そう。それなら連絡してくれればよかったのに。(れん)くんも(ゆう)ちゃんも、帰ってくるのが遅くなるって言ってたから、お菓子用意してないの。ごめんね、愛美ちゃん」

 申し訳なさそうに、頬に手を当てて困ったような表情で謝ってくる久瑠実さん。

「いえ、わたしのことは気にしないで下さい。わたしも連絡していませんでしたから」

 本当は、スマホのアプリの連絡で、蓮さんも憂ちゃんもいないことがわかっていたので、わたしは早く帰ってきたのだ。


 この家なら、智子との思い出はないから……。

 あの子のことを考えずに、済むような気がしたから……。


 わたしは、お弁当箱を久瑠実さんに預けて、そのまま部屋へと引きこもった。

 制服のまま、ベッドに潜り込んで布団を被る。

 そうすると、心が少し、落ち着いてくるような感じがした。

 独りの世界でも、ちゃんと生きていけるような気がした。

 大丈夫、わたしは大丈夫だからと、いつものように自分に言い聞かせる。

 そして、そのまま夢の中へと逃げ込もうとした瞬間、コンコンッ、と扉を叩く音がかすかに聞こえた。

「愛美ちゃん、ごめんなさい。ちょっと部屋に入ってもいいかしら?」

 久瑠実さんの声だった。