放課後、逃げるように教室を後にしたわたしは、フラフラと街を彷徨っていた。

 もちろん、『逃げるように』というのは、霧島(きりしま)伊丹(いたみ)からではない。

 あいつらに怯えるくらいなら、死んだ方がましだ。


 わたしが逃げてきたのは、自分自身の心だった。


 くそっ、どうして智子(ともこ)のことを考えるだけで、こんなに苦しくなるんだ。

 今のわたしは絶対におかしい。

 街を歩いていると、色々なことを思い出す。

 そんな風に、ぼうっ、と徘徊していたはずなのに、いつの間にか、初めて智子と出会った文房具屋にも立ち寄ってしまっていた。

 文房具屋は、今日も制服を着た女の子たちで店内を埋めていて、1人でいるのはわたしだけだった。

 店内の喧騒の中、茫然と立ち尽くすわたしは、ふと考える。

 もしも、わたしがあのとき、智子を助けなかったら、あの子はどうなっていたのだろうか……。

 いや、あの子のことだけじゃない。

 わたしはどうなっていたのだろう……。

 智子は、わたしを正義のヒーローのように慕ってくれていた。

 でも、違うんだよ、智子。

 やっぱりアレは、わたしがあんたを助けたんじゃないんだよ。

 でも、あんたはそんなことを言っても、全然聞いてくれないだろうね。

「ありがとう愛美(まなみ)ちゃん」って、いつものように笑って言ってくれるだけなんだろうね。

 でも、ごめん、智子。

 わたしは、あなたのそんな感情を、受け止めきれない。

 わたしなんかが、受けていいものじゃないからさ。

 だから、わたしの選択は、正しかったんだ。

 あんな形になってしまったけれど、あの子と離れて、正解なんだよ。