そんな皮肉を頭に浮かべたわたしが連れてこられたのは、いつも智子と昼ごはんを食べている体育倉庫の前だった。
この場所は、人目に付きにくい。
それは、2週間程利用させて貰っているわたしが一番よく知っていた。
人目に付きにくい場所か……。
ややこしい事態になりそうな気がした。
そして、わたしのそういう勘だけは、当たったりする。
「あんた、この前、チクったでしょ?」
「……はい?」
ピアス耳女が、頭の悪そうな質問をしてきた。それじゃあ何言ってんのかさっぱりわからないじゃないか。
「あんた、何か文句あるわけ?」
香水女が、ドスの利いた声でわたしを脅す。おまけに握られている腕にも、力を入れられてしまう始末だった。
どうやらわたしの不満が露骨に顔に出てしまっていたようだ。
だが、わたしの立場になったら文句のひとつも言いたくなるだろう。
わたしは何も説明されないまま、ここまで連れてこられたのだ。不満の一つや二つを口に出していたっておかしくないじゃないか。
あと香水くさいからさっさとわたしから離れてくれないかな?
「霧島、私、こいつ見てるとすっごい腹立ってくるんだけど」
「それはあたしも同じだけど、人違いだったら可哀想でしょ、伊丹?」
「ケッ、嘘つけ、お前が誰かを可哀想なんて思うかよ」
ケラケラと、わたしの腕を握る香水女は笑う。
この香水女の名前は伊丹というらしい。
そして、わたしを見下すように先ほどから腕を組んで立っているピアス耳女が、霧島ということか。
別に、覚えたくもない個人情報だったけれど、一応頭に残しておいた。